ここ数年で、アイアンのロフト角は大きな変化を見せています。
2019年現在、各社のアイアンモデルのロフト角は7Iで【35~26°】と大きな開きがある状態。
では、このロフト角の設計思想はクラブの性格をどのように変え、スイングにどのような影響を与えるのか、今回はこの点について考えていきましょう。
ストロングロフトとは
すでに『ストロングロフト』という用語は一般的に認知されているため改めて説明する必要もないと思いますが、簡単に言うと「ロフト角が立っている」=「角度表記で数値が低い」ものをストロングロフトと呼びます。
ロフト角は寝ている(数値が高い)方がボールを高く飛ばし、立っている(数値が低い)方がボールを低く打ち出します。
高い打球は落下時に重力によって推進力を失って自由落下に近い状態になりますから、ランが出にくくその場に止まりやすい性質があります。
逆に、低い打球は落下時にも推進力を失いにくくランが出やすいためトータルの飛距離としては伸びる傾向にあります。
そのため「ストロングロフト=飛ぶ」というイメージを持たれることが多いようです。
※ここで言う「高い打球」「低い打球」はあくまでナイスショットの範囲。
極端な例(「テンプラ」や「どトップ」)は含みません。
ストロングロフトの目的は本当に「飛び」?
では、ストロングロフトとは本当に『飛び』を追求した結果の進化なのでしょうか。
これについては「違う」と感じる理由がちゃんと存在します。
なぜなら、ストロングロフトを実現するのはクラブヘッドの『低重心化』と必ずセットだからです。
低重心化がもたらす効果
従来、アイアンの理想的なスイングは『ダウン軌道でターフを取る』というものです。
このダウンスイングによりフェース面のスイートスポット、いわゆる芯をボールに上から押し付けるようにHITし、発生するバックスピンで高い弾道を実現することが出来ます。
が、このダウンスイングはゴルフ初心者、初級者には大変難しい技術であるという側面もあり、上級者の証として憧れられてきました。
クラブヘッドの低重心化は、このダウンスイング理論に変化をもたらします。
クラブヘッドの低重心化により、フェースのスイートスポット、いわゆる芯が下方に引き下げられます。
これにより、アイアンのスイングにおいてダウン軌道でスイートスポットをボールに合わせに行く必要がなく、レベルスイングでもフェースの芯でボールをとらえることが可能になるんですね。
ダウンスイングは地面が固い打ちっ放し練習場ではなかなか練習しづらく、習得すること自体が困難な技術です。
しかし、レベルスイングは打ちっ放し練習場でも充分に習得可能で、初心者、初級者にとっても一般的なスイング軌道ですから、『低重心化』は技術レベルの低いアマチュアゴルファーの強い味方であると言えるのです。
低重心化とストロングロフトの関係
では、この低重心化とストロングロフトはどうかかわっているのか。
それはここまで説明したスイング軌道に大きく関係しています。
ダウンスイングの場合、クラブヘッドはシャフトよりも遅れて降りてきます。
いわゆるハンドファーストの状態ですね。
そのため、インパクト時も当然シャフトはわずかに前方に寝た状態になり、ロフト角は実際よりも少し立った状態でインパクトすることになります。
ところが、レベルスイングに関してはハンドファーストではなくインパクトの瞬間とほぼ同時にクラブヘッドが手元を追い越すことになりますから、インパクト時にシャフトは垂直に立ち、ロフト角もスペック通りの角度でボールにHITすることになります。
この時、『ダウンスイングで少し立ったロフト角』と『すでに立ったロフト角でのレベルスイング』においてインパクト時の実効ロフト角が近い値になる、というわけです。
そしてこのダウンスイングとレベルスイングのインパクトにおけるロフト角の差を埋めるのが、ストロングロフト特有の角度なんですね。
結果、難易度が低いレベルスイングにおいて、高難易度のダウンスイングのインパクトと同様のロフト角を再現するのがストロングロフトであり、言い換えると『飛ばす』ことが目的なのではなく『求められるスイングの難易度を下げる』ことが目的、ということになるのではないでしょうか。
レベルスイングとダウンスイングの違い
では、難易度の低いレベルスイングでもダウンスイングと同じようなスコアメイクは可能なのでしょうか。
答えはNOですね。
ストロングロフトと低重心の恩恵で『レベルスイングでもダウンスイングと同様の飛球が期待できる』といっても、あくまで疑似体験に過ぎません。
なぜなら、『フェースのスイートスポットでボールをとらえられる』というのはダウンスイングの数あるメリットの中のたった一つに過ぎないからです。
ここではレベルスイングとダウンスイングの決定的に違うポイントをいくつか例に挙げましょう。
ダウンスイングはバックスピン量が多い
ダウンスイングで打ち出されたボールには強いバックスピンがかかります。
バックスピンが強くかかった打球は高く上空へ駆け上がり、失速して落下する頃には推進力を無くして垂直に近い角度で落下します。
そのためキャリーの落下点から大きくランが出ることは無く、この打球の性質が『狙った場所に止める』ためのコントロール性を生むんですね。
ですが、レベルスイングでスイートスポットをとらえた打球は、インパクト時にボールに与える摩擦が弱く、強烈なバックスピンを生み出しません。
たとえダウンスイング時と近い実効ロフト角でインパクトしてもスピン量が違えば打球の性質も違い、バックスピンが弱い打球はそれほど高さを出せず、棒球に近い飛球で落下地点からもランを出してしまいます。
ランを飛距離に含めれば『飛んでいる』ことには変わりありませんが、そもそもアイアンに求められるのは飛距離よりもコントロール性です。
飛距離が欲しいなら番手を上げれば済みますからね。
ダウンスイングはライの凸凹に強い
ダウンスイングは、クラブヘッドがボールより高いところからインパクトへ向かう軌道を描きます。
そのため、ボールが置かれているライ、正確にはボールのわずか手前あたりのライの荒れ、凸凹の影響を受けづらい特徴があります。
反してレベルスイングは、クラブヘッドがボールに対して同じ高さを平行移動してインパクトに向かうことになります。
そのため、ボール手前のライの凸凹にソールが引っかかりやすいというデメリットがありますね。
これら2点、スピン量の違いと外乱の拾いやすさから見ても、ダウンスイングの方がスコアメイクに対して優れている、と言えますね。
ストロングロフトのアイアンが適している人
ここまでの考察から、ストロングロフトの効果、目的が単純な飛距離アップではないことがわかっていただけたでしょうか。
本当のストロングロフトの目的は『難易度の低いレベルスイングでもしっかりと打てる』ということですね。
(しっかり打てた結果として当然飛距離も伸びますから、意味合いはかなり似通っているとも言えますが。)
このことから、ストロングロフトが適しているのは【初級者~中級者】であると言って間違いないでしょう。
逆に、「ダウンスイングで正確にボールをとらえられる」「アイアンの飛距離コントロールに打球の高さやスピン量まで意識できる」といった上級者はストロングアイアンに頼る必要がありません。
ヘッドがコンパクトでコントローラブルなアイアンこそ上級者の技術を活かすためのアイアンであり、ストロングロフトはこれに勝る性質のものではない、と言うことですね。
なお、クラブを選ぶ際には自分が目指すスコア、腕前をイメージして選びましょう。
例えば、上級者になるためにダウンスイングの習得を目指している人がストロングロフトを買う必要はありません。
そして、ストイックに上達をめざすわけではないエンジョイゴルファーがストロングロフトを避ける理由もありません。
自分のゴルフとの向き合い方に応じて使う道具の適正も変わってくる、と言うことです。